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櫻井真也(さくらいしんや)/
櫻井焙茶研究所所長。和食料理店「八雲茶寮」、和菓⼦店「HIGASHIYA」マネージャーを経て2014 年独立、東京・南青山に日本茶専⾨店「櫻井焙茶研究所」を開設。前職での経験を活かし、お茶と食事のマリアージュ、お茶とお酒の融合など、お茶についてさまざまなメニューの企画・提案を行うほか、国内外にて呈茶やセミナーも意欲的に行っている。江戸時代に煎茶を広めた「売茶翁(ばいさおう)」のように、端正な所作と柔らかい発想で日本茶の魅力をたくさんの人に伝えたいと願う、若きイノベーター。
そのお茶のよさを最大限引き出すために、道具にも所作にもすべてに意味があります。道具でいうと、ふだん使っている銅製の薬罐は熱伝導率がよくお湯が速く沸く。汲みおく鉄釜は水が柔らかくなるといわれています。また取っ手のない急須を宝瓶(ほうひん)といい、低い湯温で淹れる場合はこれを使用して⽚手でしっかり注ぎきる。⽟露には平宝瓶(ひらほうひん)という茶葉がよく開きいてストレスがかからない形のものを使いました。
この夏わさび沢に入った経験は現場を知ることができて発見の連続でした。また、「水」。わさびにもお茶にも水が欠かせない。人間も水でできているし、「水」は、波紋を眺めたり滴る音にさえ安らぎを感じる。その神秘性にお茶との共通項を感じます。そして「季節」。ぼくの発想の源は四季で、例えば公園の銀杏やくちなしの香りに季節を感じて、今どんなお茶が飲みたいかな、など考えます。
お茶は気分を変える。時間をあやつる。そのしなやかさが好きです。またやり方を少し変えることで新しいおいしさになる。例えばお茶とわさびを⼀緒に飲もうとか、出したあとの茶葉を食べようとか。固定概念にしばられず⾃由に考えることで別の輝きかたをする。今回だとわさびの瞬間的な味と香りをお茶とどう組み合わせるかが難しかったけれど、粉わさびでカジュアルなお茶が作れて面白かった。おいしさもたのしさも広がったと思います。
以前バーテンダーをしていたのですが、お茶は道具の扱い方や所作が似ています。今やっている茶酒のほか、お茶だけどお茶じゃないような、ぼくらしさが出せるものを提供していきたい。例えばジンやウォッカにお茶を浸けると洋酒から和酒の風情に変わる、それを面白がって外国のお客さんが来る。海外と日本をつなぐような仕事がしたい気持ちもあり、それはそんなところで実現しているかもしれません。尊敬している江戸時代の売茶翁は、おいしいお茶のためにさまざまに工夫を凝らしたとか。ぼくもそんな風に人を喜ばせたいです。