BANJO mots
清水将(しみずすすむ)/
1975 年⼤分県出身。1年の半導体メーカー勤務の後、料理の世界へ。
和⾷修業後「ル・ジャルダン・デ・サヴール」を経て2002年渡仏。三ツ星レストラン「マルク・ヴェラ」や
パリ「ボナクイユ」「アルページュ」等で研鑽を積む。「アルページュ」では⾁のスペシャリストとして名⾼い
アラン・パッサールシェフのもと⽇本⼈初の⾁部⾨シェフに。
その後、パリ随⼀の精⾁店「ユーゴ・デ・ノワイエ」でもあらゆる⾁の扱い⽅を学び09年帰国。
銀座「ラール・エ・ラ・マニエール」のシェフを務めた後13年に独⽴、渋⾕区初台に「アニス」をオープン。
⾷材と対話しながら繰り出されるワイルドかつ繊細な⽫に、魅せられる⼈続出。
※アニスは2021年4月30日に閉店しました。
わさびを丸ごと焼いて「苦み」を感じた時、「わさびって野菜だな!」と思いました。蕗やフキノトウもだけど、ぼくは野菜⼒とは「苦み」で、それがパワーだと思う。料理⼈としては奥に感じる⽢みなんかとバランスをとって苦みの割合いをどうコントロールするかが⾯⽩い。わさびも、つけてそのまま⾷べるだけでなく野菜として何かをのせるとか、まだまだ可能性のある⾷材だなと思います。現場に⾏って「使ってみたい」アプローチも変わりました。
味覚って⾷体験が⼤きいと思う。苦みの話でいうと、⼦供にはわかりづらい。⼈間は⾷べ慣れたものにおいしさを感じやすいので、経験は⼤事です。その中には気分や思いの要素もあって、例えばリラックスできない店ではおいしいと感じられないし、お⺟さんの料理をうまいと感じるのは、懐かしさや愛着みたいなものも⾜されている。だからぼくは、おいしさは、半分は⾷べ⼿の感覚が作るのだと思っています。
お⾁は、薄切りより分厚く切って⾷べた⽅が絶対うまいです!⾻つきにむしゃぶりつくとか、ナイフとフォークで「⾁を切る」という⾏為が、ワクワク感も含めたおいしさにつながると思う。原始⼈とか本来動物がしてきたそんな⾷べ⽅の動作は、太古の「おいしい」体験です。ぼくからすると、おはしは上品すぎるかもしれないなぁ。
考えるのはいつもシンプルな料理です。調味料でごまかさずに⾷材⼒を引き出すことに集中します。家庭では醤油などの配合で味を作る「⾜す」料理だけど、こちらは「引き算の料理」。わざわざ⾷べにきてもらうために、「⾷材」のうまさをどういかすかをまず考える。で、わさびなら⾁という⾎っぽいものと合わせると清涼感が出せてどちらもいきる。わさびを「調味料」と捉えず「⾷材」と捉えるとか、難しいけど挑戦しがいがあります。
どうしたらもっとおいしくなるかというと、楽しむことが⼀番!おいしさを素直に感じ取ること、決めつけないこと、考えすぎないのが⼤事だと思います。料理⼈としても、⾃分が楽しんじゃえばおいしいと思ってもらえる、と思ってきました。ひとりでやりくりしながら、段取りも前もってきめずその場でやり⽅を考えるのが楽しい。料理は「遊び」です。楽しく作られたものを楽しんで⾷べるから、おいしいんだと思います。